代表理事のご挨拶
代表理事のご挨拶

透水性コンクリート(pervious concrete)の代名詞といえるポーラスコンクリート(Porous Concrete, POC)は、内部に連続する空隙を有し、透水性、保水性、植生など多様な性能を設計できるコンクリートです。多様な性能を有することから、今後、環境面のみならず、豪雨対策などの防災面でも重要な役割を果たす社会基盤材料となることが期待されています。
国内では、1960年代にPOC製の透水性ヒューム管が開発され、その後もU字ブロックなどに応用されてきたほか、歩道や駐車場の舗装や河川護岸の現場施工への適用も試みられています。90年代に注目を浴びて採用拡大が期待されましたが、当時は製造・施工面での留意点が十分に理解されておらず、良好な品質を確保できない場合もあったようで、現場施工分野での需要が徐々にしぼんでしまいました。ただ、着実に業績をあげている施工業者もあり、現在、再び注目されつつあると感じています。
個人的に三重大学の防災・減災研究センター長を兼任するなど、防災・減災に関心を持ち合わせていたこともあり、豪雨災害対策への適用に向けても研究を行いました。その中で、土木分野にとどまらず、建築分野でもPOCが大いに役立つことが分かってまいりました。
局地的な集中豪雨で都市河川が氾濫する外水氾濫や、市街地の湛水(内水氾濫)への対策が急務となっています。都市部の雨水は舗装道路上を流れ、グレーチングから排水路に入っていく。これに対し、POCを用いた透水性舗装では、言わば舗装の全面がグレーチングの役割を果たすため、豪雨でも排水路が詰まって冠水が生じることもなくなるし、雨水を瞬時に取り込めるので内水氾濫が起きにくくなるといえます。
POCの活用分野は、従来、環境負荷低減型と生物共生型に大別されています。環境負荷低減型では、透水性能(排水・透水性の舗装、透水性桝・ヒューム管への適用)、吸音性能(騒音を低減)、水質浄化性能(汚濁水の浮遊物や有害物質を吸着)、温熱性能(断熱性、蓄熱・放熱性のコンクリート製品への適用)などが活用できます。生物共生型では、緑化性能・植生を備えて昆虫・小動物が棲息できる空間、海生生物の付着・棲息基盤などに利用でき、水辺の生態系改善にも寄与できます。
内部に多数の連続空隙を備えたコンクリートですが、使用材料でみると、細骨材が少量であることを除けば通常のコンクリートと同じ。単位量当たりで比較すれば強度は弱いものの、断面積を大きくしたり、支持条件を良くすれば実用部材としての耐荷力の確保は十分に可能です。また、強度は空隙率に依存します。バインダ(結合材)を強化して空隙率を絞れば一定の強度が得られ、きちんと施工すれば30N/㎟レベルの高い強度も実現可能です。
日本コンクリート工学会(JCI)の「性能設計対応型ポーラスコンクリートの施工標準と品質保証体制の確立研究委員会(2013~14年度)」で委員長を務め、委員の皆さんとともに品質保証に係る検討を行いました。そうした中で、フレッシュPOCについては、空隙率と締固めを考慮した配合設計が必要となること、また、一般的なコンクリートと比べてワーカビリティーの変化が大きいことから、運搬時の品質変動が懸念されることが課題として指摘されています。もちろん生コン会社は荷下ろし時の品質に注意しなければなりませんが、市販の高性能AE減水剤遅延形を使用することで、この課題は解消できると考えられます。
一方で、施工品質の確保は重要な課題です。設計された空隙率できちんと強度を確保することが求められます。局部的に締固めが強すぎると平坦性が確保できないため、より平坦な締固めが実現できる軽量の施工機械が開発されており、これを用いて丁寧に施工すれば良好な品質を確保できるものと思います。
我々の次の課題は、そうした技術をきちんと理解した製造・施工業者の育成とともに、コンサルや建設関係のデザイナーをも育成することだといえます。関係者で透水性コンクリートという魅力的なコンクリートを活用した建設物や住環境、都市空間を設計できるようになることを目指したいと思います。
元近畿大学教授の故玉井元治先生とは「POCに市民権を与えること」を目標に意気投合し、長年にわたって多くの方々とともに研究に取り組んできました。その結果、品質の安定したコンクリート製品もうまく組み合わせて使うことで、市民の皆様に喜んでもらえると思います。
全国的な普及を進めるには、技術力のある製造・施工業者を中心に、この取り組みに賛同して頂き、関係者の協力体制を構築することが必要です。現在の大きな課題はPOCを理解し、きちんと施工できる企業が不足していることです。とくに施工業者の方々へのノウハウの教育活動を進めて、施工側の態勢を整えていくことが求められています。
POCの応用で大切なのは、人々の生活にどのように貢献していくかを恒に考慮することです。今後は、土木コンサルや建築デザイナーが住環境や街並みの設計において、環境負荷低減、生物共生、そして防災・減災の視点を組み込んでもらえるよう願っています。私たち日本透水性コンクリート協会は、5~10年後にはこの魅力的な技術が全国で幅広く普及拡大していることと確信しています。
(令和元年11月7日 コンクート工業新聞インタビュー記事に基づく)
代表理事 畑中重光のプロフィール・経歴
- 氏名:
- 畑中重光(はたなか しげみつ)
- 昭和53年3月:名古屋大学工学部建築学科 卒業 (谷川恭雄研究室)
- 昭和55年9月(1年間):米国Drexel 大学土木工学科 留学 (Dr. Popovics研究室)
- 昭和59年3月:名古屋大学大学院 博士課程 修了 (小阪義夫研究室 工学博士)
- 昭和59年4月 名古屋大学大学院工学研究科 研究生
- 昭和60年4月 豊田理化学研究所 奨励研究員
- 昭和60年10月 日本学術振興会 特別研究員
- 昭和61年6月 名古屋大学工学部土木学科 助手 (田辺忠顕研究室)
- 昭和62年7月 三重大学大学院工学研究科建築学専攻 講師、助教授、教授を歴任
- 平成15年4月~
学長補佐(計12年間)、副学長(2年間)
防災室長(DMPO、自然災害対策室、地域圏防災減災研究センター)
防災塾長(さきもり塾、みえ防災塾)
工学研究科長(工学部長)等を併任 - 令和2年4月 三重大学名誉教授
- コンクリート工学:SFRC、圧縮破壊、構成則、非破壊試験、真空脱水、透水性コンクリート
- 鉄筋コンクリート(RC)構造:梁・柱・壁の靭性、塑性ヒンジ、低強度コンクリート、補修
- 地震防災:阪神淡路大震災、三重県被害想定、耐震診断、耐震補強
- 環境保全:生コンスラッジ、ジオポリマー
- 歴史建築保存:煉瓦造、アユタヤ遺跡、小径ドリル試験機、登録有形文化財、お城復元WG
- 日本コンクリート工学会(JCI)
理事、中部支部長、研究委員会委員長(研究専門委員会の取りまとめ委員会)、
コンクリート技士試験委員会委員長、コンクリート技士研修委員会委員長、
コンクリート診断士研修委員会委員長、コンクリート診断士試験委員会幹事、など
「生コンスラッジの有効利用に関する研究専門委員会」委員長(平成6~8年)
「透水・脱水によるコンクリートの品質改善に関する研究専門委員会」委員長(平成14~16年)
「ポーラスコンクリートの品質保証体制の確立研究専門委員会」委員長(平成25~27年) - 日本建築学会(AIJ)、土木学会(JSCE)など
- 昭和63年 日本建築学会東海賞
- 平成05年 シンガポールコンクリート協会 論文賞
- 平成07年 日本コンクリート工学協会 論文賞
- 平成15年 日本建築仕上学会 論文賞
- 平成17年 日本建築学会 論文賞
- 平成17年 日本コンクリート工学協会 論文賞
- 平成20年 セメント協会 論文賞
- 平成21年 日本コンクリート工学会 技術賞
- 平成22年 日本コンクリート工学会 功労賞